後藤さんが牙を剥く

声豚腐女子のジャングルポッケ

拝啓、高尚な三次元様

「二次元のどこが好きなんですか?」

この間、会社の先輩二人と焼肉を食べていたらそう言われた。
なかなかに哲学的な問いである。日頃「二次元が楽しすぎるので三次元の恋愛には興味がない」と言ってまわっているわたしは言葉に詰まった。
わたしにそれを聞いた先輩は婚活パーティーに行くことを趣味にしている30代の男性で、おそらく二次元を愛する心とは無縁である。パチンコ行くって言ってたから知ってるには知ってるかもしれないが、でもプリンスたちにサイリウム振り回すようなこちら側の人間でないことはたしかだ。
困り果てたわたしは先輩に質問を返した。
「じゃあ先輩は三次元のどこが好きなんですか?」
先輩は困った顔をした。その様子を見ていたもう一人の先輩が、肉を焼く手を止めて、勝ち誇るように宣言した。
「二次元なんて所詮、点と線!」

その日、ここでこの論争は終わった。単純に、綺麗な店員のお姉さんが追加の肉を持ってきたからだが、しかし、この疑問はなかなか払拭できるものではないと思う。
「二次元のどこが好きなんですか?」
この質問には、少なからず侮蔑が含まれていると思う。馬鹿にする気持ちである。つまり
「二次元(なんか)のどこが好きなんですか?(その良さが私には全然理解できません)」
ということだ。わたしは自分の好きなものを貶されて腹が立った。社会に出てまだ日が浅いが、オタクでない人々の寛容さというのは馬鹿にする気持ちと紙一重だとひしひしと感じる。彼氏彼女がおらず恋愛的なことに興味のないわたしのような人間が、どことなくリア充を馬鹿にする気持ちと同じ感じなんだろうなと思うけれど、別にそういう話がしたいわけではない。

二次元のどこが好きなんですか?

わたしは二次元のどこが好きなんだろうか。
そもそも先輩の問うた二次元というのは、どの辺までをさすのだろうか?
小説漫画のいわゆるインクの染みから、アニメゲームの二進数の並びを指すのだろうか。ドラマCDやシチュエーションCDは? 仮面ライダーやヒーロー戦隊の特撮は?
思えばわたしは中学生の、自分がオタクだということに関して、非オタクのクラスメイトたちにからかわれたりしたときからこの疑問を抱えている。いったいどこからどこまでが、オタクのラインなのか。
いわゆるジャニオタという面々はそれなりに地位を得ているように思うのに、対象が二次元というだけで受けるこの揶揄はなにか。昨今の二次元アイドル戦国期と並行してジャニーズのグループにハマってしまった身として、感覚は全く変わらない。偶像崇拝である。もしくは、魅力ある男たちを愛でる会。
ぶっちゃけMステでNEWSを応援している時と、プリライのBDを見ている時の感覚って全く一緒なんだよなあ。
うーん。
そこで、もう一人の先輩が言ったことが思い出された。

「二次元なんて所詮、点と線!」

だからなんだ。
わたしは点と線を愛しているのではない。そこにいるキャラクター達と、それを演じている役者さんを愛している。それはアニメであれドラマであれ一緒だ。
と、ここまで書いたところで唐突に結論にたどり着いた。

わたしは二次元に付随する物語を愛しているのではないか?

点と線でも、目に見えない音の波紋でも、そこに広がりを見せる登場人物の物語が好きなのではないだろうか。
幼少期から、わたしは本を読んできた。なぜかというとそういう家だったからだ。わたしが夢中でトトロを見ている後ろで、両親がコーヒーを飲みながら分厚い本を読む家であり、それを真似してわたしも絵本を読んでいた。絵本から児童書になり、漫画になり、ライトノベルにエッセイ、聖書は面白くなくて途中で断念したが、つまるところ、その流れでアニメやドラマを楽しんでいるのではないだろうか。
そう考えれば納得する。そして先輩との間に生じていた誤解も発覚した。
わたしは常々「二次元が楽しすぎるので三次元の恋愛には興味がない」と言っている人間である。何故このような主張をするかというと、社交辞令的な「彼氏いないの?」的な話題を避けるためだが、これを先輩は《恋愛対象が二次元である》というふうにとったのではなかろうか。
わたしは憤慨する。
全くの誤解である。
この世にはガチ恋勢と呼ばれる、つまり点と線である彼らにガチで恋をしている人たちがおられる。おられるが、わたしはそこに含まれない。彼らにガチで恋をしているわけではない。というか、恥ずかしながら恋のなんたるかを知らないので何とも言えないのだが、そこはまあいい。わたしはガチ恋勢ではない。そこが重要なポイントである。
わたしが愛しているのは、点と線であれ二進数であれ血の通った息をする三次元であれ、そこに付随する物語である。
そして、現実世界にはその愛する対象、愛する物語がないのである。
見つけられていないだけなのかもしれないが、目に届く範囲にあるものだけが存在する。
わたしが愛する物語は、二次元にある。
わたしは二次元を愛している。
ああ愛すべき二次元よ!

……明日から現実世界で連勤である。
いくらわたしが二次元を愛していても、愛するものにかけるためのお金は現実世界でしか得られないのでしかたがない。
現実逃避ついでに適当に文章を打っていたが、あと五分で聴きたいラジオがはじまるので、今日のところはおしまい。